今回は、インタビューをご紹介するコラムです。インタビュアーは執筆者である経済学部の大学教授で、現場で活躍されている栄養士の先生へ日頃の食生活でのカルシウム摂取方法についてや注意することなどを取材されています。カルシウム不足は実は身近に潜んでいます。皆さんもご自身や身近な人に当てはめながらお読み頂き、この記事を参考にされてはいかがでしょうか。
インタビュー
食事指導の現場で活躍されている栄養士M先生にカルシウムを中心にインタビューさせていただいた。M先生は離乳食から高齢者の食生活まで幅広く指導されているが、高齢者を対象にすることが最近は多いとのこと。高齢者にはバランスの取れた食事のあり方のレクチャーや、地域包括支援センターから依頼を受けて訪問型個別の栄養相談をされている。高齢者への栄養相談は緊急度が高く、日常生活はほぼ自分でできるけれども多少のヘルプが必要な”要支援”、もしくは要支援の一歩手前である「フレイル」の状態から、自分一人で日常生活が送れなくなる”要介護”への進行を食い止めることを目的に短期集中で食事改善を促すのだそうだ。
インタビュー
食事指導の現場で活躍されている栄養士M先生にカルシウムを中心にインタビューさせていただいた。M先生は離乳食から高齢者の食生活まで幅広く指導されているが、高齢者を対象にすることが最近は多いとのこと。高齢者にはバランスの取れた食事のあり方のレクチャーや、地域包括支援センターから依頼を受けて訪問型個別の栄養相談をされている。高齢者への栄養相談は緊急度が高く、日常生活はほぼ自分でできるけれども多少のヘルプが必要な”要支援”、もしくは要支援の一歩手前である「フレイル」の状態から、自分一人で日常生活が送れなくなる”要介護”への進行を食い止めることを目的に短期集中で食事改善を促すのだそうだ。
「たいしたことは何もしていません」と謙遜されながらも人の生活に関わる大切な活動をされていらっしゃる方だ。
「行政からのお仕事もされていらっしゃるとのことですが、栄養指導の最近の傾向はどのようになっていますか?」
要介護支援者となると、家族や周囲の負担も大きく問題が大きくなってしまう。場合によってはデイケアセンターを探さなければならず、ひいては行政負担も拡大する事になる。そもそも本人が辛いのは痛々しい。そのため、この10年ほどは予防が強化される傾向があるそうだ。食事や栄養指導は医療や介護に至る瀬戸際の問題なのだ。
カルシウムチェック
カルシウムチェック
カルシウムについて高齢者を対象としたレクチャーを私一人のためにしていただいた。
まず最初にチェックシートを示され、当てはまるものがどれだけあるかの診断を受ける。
□ちょっとしたことで骨折したことがある.
□食べ物の好き嫌いが多い.
□牛乳・乳製品が苦手である
□あまり日光に当たらない生活をしている
□あまり運動をしない
□家族が骨粗鬆症と診断されたことがある
皆さんも試していただきたい。もちろんたくさんあるほど問題だ。
あまり格好の良い話ではないが、56歳男性の私に当てはめてみよう。食べ物に好き嫌いがあるわけではないが、冷蔵庫に乳製品が入っていないことも多い。仕事でも大半室内ばかりでコンピュータに向かっており、以前は頻繁に出かけていた調査旅行もコロナ禍以降は皆無だ。会議もオンラインに切り替わり、研究室から一歩も出ないことも多い。スポーツはまるでやらず、地方都市での移動は全て車だ。
食べ物・乳製品についてはチェックすべきか迷うが、「日光に当たらない」「あまり運動をしない」は間違いないだろう。
続いてM先生のレクチャーは骨粗鬆症に影響を及ぼす原因に続き、「改善できないこと」と「改善できること」に分けて解説される。
改善できないこと:加齢、性別(女性)、過去の骨折の経験
改善できること:極端な食事制限、カルシウム不足、ビタミンD・K不足、運動不足、日光を浴びる時間が少ない。
改善できることを怠っていることが問題だろう。私の場合、食事について慎重に考えておらず、ほぼ全て該当してしまっている。高齢者向けのレクチャーだから自分には関係がないだろうと高を括ってきたが、だんだん追い詰められる気持ちになってくる。
M先生のレクチャーは必要なカルシウム摂取量と食材に進む。
カルシウムの摂取量は体重・年齢で多少の違いがあるものの、概ね男性で日に700mg,女性で650mgは必要だとのこと。これを比較的カルシウムを多く含む食品で示すと次のような図となる。
骨粗鬆財団ウェブサイト(https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/calcium.html)より引用
ここに挙げられている食材は比較的多くカルシウムを含み、容易に摂りやすいものばかりだそうだ。それでも男性(女性)の場合,毎日牛乳コップ3杯以上(3杯弱)、ヨーグルトだと6カップ弱(5カップ)、チーズ5ピース(4ピース)必要だ。豆腐だと2丁(1丁半)、納豆なら16パック(13パック)、小松菜だと1束でも足らず(女性なら満たす)、チンゲンサイなら7株(6株)は必要になる。
一人暮らしで,お腹が空いてから、さて食事をどうしようかと考え適当なもので空腹を満たしている私が1日の必要量に遠く及んでいないことは明白だ。
一人暮らしで,お腹が空いてから、さて食事をどうしようかと考え適当なもので空腹を満たしている私が1日の必要量に遠く及んでいないことは明白だ。
「一つの食材のみで確保しようとするのは無理があるため、色々な食べ物を朝昼晩に分けて、少量ずつであってもバランスよく摂る工夫をするのが良い方法です。」
日本人のカルシウム摂取状況
それにしてもカルシウム不足は私だけだろうか?本当に日本中の人がこれほどカルシウムを摂れているのだろうか?少し調べてみた。本来、年齢・体重別に綿密に検討すべきところだろうが、インターネットで容易に入手できたデータから素人の大雑把な議論であることはご了承いただきたい。
成人(20歳以上)と後期高齢者(75歳以上)の平均カルシウム摂取量の年次変化を示したものが下のグラフだ。
国立健康・栄養研究所公表データより作成.
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/eiyouchousa/keinen_henka_eiyou.html
年によって乱高下はあるものの、成人は全体的に減少傾向が見られるのに対し、後期高齢者は比較的多くのカルシウムを摂取しており、2013年以降は成人のいずれの区分よりも多い。戦前から戦中生まれで私の母親世代より年長の人達にあたり、それ以降の我々よりしっかりした食生活をされているのだろう。
彼らは家族の健康を支えてきた母親であったり、食生活に配慮してもらえている男性であることが多いのかもしれない。比較的上手にカルシウムを摂取している後期高齢者であっても必要量の男性で700mg、女性で600mgに達しているわけではない。
彼らは家族の健康を支えてきた母親であったり、食生活に配慮してもらえている男性であることが多いのかもしれない。比較的上手にカルシウムを摂取している後期高齢者であっても必要量の男性で700mg、女性で600mgに達しているわけではない。
後日、M先生に追加でお尋ねした。
「データを見てみて高齢者が案外カルシウムを摂られているようで驚きました。」
実際、若い人よりずっと食事に気を使っている方が多いけれども、年齢とともに吸収率が低下するから、しっかり食べても不足しやすいそうだ。
私の食生活の実情をお話しし、なかなか食事に気を遣える気がしない場合、どうしたら良いものかお尋ねした。
「そんな状況なら、イライラしたり気分が沈んだりといったことはありませんか?カルシウム不足が神経や精神に影響を及ぼすことが言われるようになっています。」
そうかもしれない。今や骨粗相症の心配のみならず、心のあり方にまで影響を及ぼすことが実証されているとのこと。
「食事だけでカルシウムが不足してしまう場合、サプリやカルシウム剤で補うことも考えて良いと思います。ただし流行やイメージで適当に選ぶのでなく、しっかり吟味した方がいいでしょう。加齢は誰にでもおとずれますが、食事・運動と吸収の良いカルシウム剤を上手く組み合わせることで健康維持は可能です。」
カルシウム摂取が生活の質に大きく影響することは間違いない。当初、カルシウム摂取の問題など私には関係のない内容だと考えていたが、かろうじて深刻な状況に至っていない今こそ考える時だと痛感させられた。
(福井県立大大学経済学部 教授 堀田 学)